はじめに|年金が増えれば生活は安心なのか
以前、自律訓練施設で同じ部屋だったT氏が、デイケアで私にこんな話をしてくれました。
「物価が上がっているけれど、支給される障がい者年金も上がっているから、そんなに心配する必要はない。不満はない」
年金が増額されること自体は、歓迎すべきことです。しかし、私は別の疑問を持ちました。
年金の支給額が増えていても、実際の生活はそれだけ安心できるようになっているのでしょうか。
食料品や日用品など、毎日の暮らしに欠かせないものが値上がりすれば、収入が増えても生活に余裕が生まれない場合があります。
そこで今回は、私自身の年金受給額と、物価や賃金に関する統計を比較しながら、障がい者の生活と国の政策について考えてみます。
これは、特定の政党や政権を批判することだけが目的ではありません。制度上の数字と生活実感の間にどのような違いがあるのかを考え、より実情に合った政策のあり方を探るための問題提起です。
1.私が受給している年金額の変化

令和7年10月と令和8年9月の比較
まず、私自身が受給している金額を比較してみます。
| 給付の種類 | 令和7年10月 | 令和8年9月 |
|---|---|---|
| 障がい者共済年金 | 42,001円 | 42,840円 |
| 障がい者基礎年金 | 69,308円 | 70,608円 |
| 年金給付金 | 5,450円 | 5,620円 |
| 月額合計 | 116,759円 | 119,068円 |
※上記は筆者個人の受給額です。各給付の正式名称や金額は、支給通知書などで確認してください。
月額の合計は116,759円から119,068円へ増えています。増額は2,309円で、令和7年10月の金額を基準にすると約2.0%の増加です。
単純に12か月分に換算すれば、年間では約27,700円の増収に相当します。
生活を支える収入が増えることには、確かな意味があります。しかし、月2,309円の増額で、食費や日用品、交通費などの値上がりを十分に補えるのでしょうか。
私が知りたいのは、年金が増えたという事実だけでなく、その増額によって生活がどの程度維持できているかという点です。
給付の種類によって増額率は異なる
私個人の受給額を比較すると、障がい者共済年金は約2.0%、障がい者基礎年金は約1.9%、年金給付金は約3.1%の増加となります。
ただし、これらは私の受給額から計算した増加率であり、年金制度全体の公式な改定率とは区別する必要があります。
年金の改定には、賃金や物価の変動などを踏まえた制度上のルールがあります。給付の種類によって改定の仕組みも異なります。
この仕組みを理解したうえで、実際の生活にどのような影響が生じているのかを考えることが大切です。
2.物価上昇率と比較すると何が見えるのか
総合的な物価指数と生活必需品の値上がり
今回、比較の手掛かりとして取り上げた参考値は、次のとおりです。
- 東京都区部の消費者物価指数:前年同月比約1.9%
- 食料品:約3.1%
- 家具・家事用品:約4.9%
- 交通・通信:約2.4%
※これらは今回の検討に用いる参考値です。公開時には対象月や品目分類を含め、総務省統計局の公表資料と照合してください。
消費者物価指数は、さまざまな商品やサービスの価格変動をまとめた指標です。そのため、総合指数が1.9%上昇していても、すべての品目が同じ割合で値上がりしているわけではありません。
例えば、食料品の値上がりが総合指数を上回っていれば、食費の割合が高い世帯では、平均的な物価上昇率以上の負担を感じる可能性があります。

低所得者の生活実感を考える
収入に余裕がある世帯であれば、支出が増えても、貯蓄を取り崩したり、別の費目を節約したりして対応できる場合があります。
一方、収入の大部分を食費や光熱費などに使っている世帯では、節約できる余地が限られていることも考えられます。
もちろん、食料品の値上がりだけで、すべての低所得者の生活がどの程度厳しくなったかを証明することはできません。世帯ごとの支出構成や収入の状況も確認する必要があります。
それでも、総合的な物価指数だけでは、個々の年金受給者が感じる負担を十分に説明できない場合があるのではないでしょうか。
私は、年金の増額率だけでなく、生活必需品の価格変動や家計への影響も考慮して、生活の安心が維持されているかを検証する必要があると思います。
3.賃金の上昇率と比較して考える
医療・福祉分野で働く人たちの賃金
もう一つ、私が注目しているのが、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」です。
今回、参考として取り上げた令和8年8月分の所定内給与の前年同月比は、次のとおりです。
- 一般労働者・調査産業計:約3.8%
- 一般労働者・医療・福祉:約4.2%
- パートタイム労働者・調査産業計:約4.1%
- パートタイム労働者・飲食サービス:約5.7%
※公開前に、該当月の速報資料と統計表を確認してください。
この参考値を見ると、今回の比較対象では、働く人の賃金上昇率が私個人の年金総額の増加率約2.0%を上回っています。
特に気になるのは、医療・福祉分野の賃金上昇率です。
障がい者が福祉サービスを利用しながら生活を立て直すためには、福祉職員や医療関係者など、多くの人たちの支援が必要です。こうした人たちの賃金が上昇することは、人材確保や安定した支援体制の維持という面で重要です。
支援する側の生活が安定することも、支援を受ける側の生活が安定することも、どちらも欠かせません。
賃金と年金の増加率の違いをどう考えるか
ただし、賃金上昇率と年金改定率は、単純に比較できるものではありません。
賃金は働く人の給与の変化を示す一方、年金は制度で定められたルールに基づいて改定されます。対象者や計算方法が異なるため、両者の増加率に差があることだけで、政策が適切かどうかを判断することはできません。
それでも、年金受給者の収入の伸びが生活費の上昇に追いつかなければ、実質的な購買力が低下する可能性があります。
今回の比較を通じて、私が考えたいのは、年金受給者の生活が実際にどのように変化しているのかという点です。
年金の改定率だけでなく、物価上昇を考慮した購買力の変化や、低所得世帯の支出状況も含めて検証することが重要ではないでしょうか。
4.障がい者年金の金額に政治の意思は反映されるのか

制度上の計算ルールと政治判断
年金額について疑問を持つと、国の政策がどのように決まっているのかにも関心が向きます。
障がい者年金の金額は、単純にその時点の政権が自由に決めているわけではありません。賃金や物価の変動などを踏まえた制度上のルールがあり、給付の種類によって改定方法も異なります。
一方で、年金制度や福祉政策の枠組み、予算の配分、給付の拡充などには、法律や予算を通じた政治の判断が関わります。
つまり、制度上の計算ルールが存在することと、政治が制度のあり方に影響を与えることは、分けて考える必要があります。
問いたいのは、制度の結果が生活に合っているか
私が疑問に感じているのは、決められたルールに従って年金が増額されていても、その結果が実際の生活をどの程度支えているのか、十分に検証されているのかという点です。
例えば、次のような課題が考えられます。
- 年金受給者の家計では、どの費目の負担が増えているのか。
- 物価上昇を考慮した場合、年金受給者の購買力は維持されているのか。
- 生活が特に厳しい人に対して、どのような支援策が必要なのか。
これらは、特定の政党や政権を批判するためだけの問いではありません。制度の結果を検証し、必要に応じて改善するための問いです。
私は、年金の増額率を説明するだけでなく、実際の生活への影響についても、国が分かりやすく説明することを期待しています。
5.障がい者の自立と社会復帰を支える仕組み
年金は生活を立て直すための基盤
障がい者にとって、年金は生活費を確保し、医療や福祉の支援を受けながら暮らしていくための重要な基盤です。
生活が安定していれば、就労支援を利用したり、復職を目指したり、副業に挑戦したりするための余地も生まれます。
私が「60代リスタートラボ」で取り上げているのも、年齢や障がいなどの事情を抱えながら、生活を立て直し、できることを少しずつ増やしていくための工夫です。
もちろん、誰もが同じ速度で働けるわけではありません。健康状態や生活環境、必要な支援は人によって異なります。
だからこそ、働くことを目指す人にも、年金を受給しながら生活する人にも、無理のない選択肢が確保されていることが重要です。
支援する側と受ける側の双方を大切にする
障がい者の自立を考える際には、本人だけでなく、福祉サービスを提供する職員や家族、地域社会の役割にも目を向ける必要があります。
福祉の現場で働く人たちの生活が不安定になれば、支援の担い手を確保することも難しくなります。一方、支援を必要とする人の生活が不安定になれば、就労や社会参加に向けた取り組みを続けにくくなる場合があります。
支援する側と支援を受ける側を対立させるのではなく、双方の生活を守りながら、社会全体の持続可能性を高める政策が求められるのではないでしょうか。
これは障がい者だけの問題ではありません。高齢者、非正規雇用で働く人、子育て世帯など、物価上昇の影響を受けやすい人たちにも共通する課題です。
6.私たちが国の政策を考えるためにできること
公的統計と自分の家計を照らし合わせる
国の政策について考えるときは、印象や感情だけで判断せず、公的統計や制度の仕組みを確認することが大切です。
今回取り上げた年金額、消費者物価指数、毎月勤労統計調査は、それぞれ異なる側面から生活の変化を示しています。一つの数字だけで結論を出さず、複数の統計を比較することで、分かることと、まだ分からないことを整理できます。
自分の家計についても、食費、光熱費、交通費、日用品などを分けて記録すれば、どの支出が増えているのかを把握しやすくなります。
制度への関心を具体的な改善につなげる
年金や福祉制度に疑問を持ったときは、厚生労働省などの公的資料を確認したり、国や自治体の相談窓口を利用したりする方法があります。
制度について意見を伝える場合も、具体的な数字や生活上の困りごとを整理しておけば、問題点を伝えやすくなります。
政治に関心を持つことは、誰かを批判するためだけのものではありません。自分たちの暮らしに関わる制度を理解し、必要な改善を考えるための手段でもあります。
まとめ|年金額の増加だけで生活の安心を判断しない

今回、私自身の年金額を比較したところ、月額の合計は増加していました。年金の増額は、生活を支えるうえで大切なことです。
しかし、食料品などの値上がりや、世帯ごとの支出構成を考えると、給付額の増加率だけで生活の安心を判断することには限界があります。
また、働く人の賃金上昇率と年金の改定率には、制度上の違いがあります。両者を単純に比較するのではなく、年金受給者の購買力や、生活に必要な費用がどのように変化しているのかを検証することが重要です。
私が国政に対して抱いている疑問は、年金が増えたことへの不満だけではありません。
制度上の数字と、実際に暮らす人の生活実感との間に、どの程度の距離があるのか。その距離を縮めるために、どのような政策が必要なのか。
この点を、国には継続的に検証し、分かりやすく説明してほしいと思います。
障がい者本人も、福祉関係者も、復職や副業を目指す人も、自衛隊OBも、広く一般の人たちも、社会の仕組みを自分の生活と結び付けて考えることが大切です。
「60代リスタートラボ」では、これからも日々の暮らしの中で感じた疑問を出発点に、制度や社会のあり方について考えていきたいと思います。
参考資料
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定について」
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査」
- 総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」
※本記事は筆者個人の受給額と考察に基づくものであり、特定の政党や政治家への支持・不支持を呼びかけるものではありません。統計値は公開前に公表資料と照合してください。


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