はじめに|働くことには収入以外の価値がある
働くことの目的として、まず思い浮かぶのは収入を得ることではないでしょうか。生活費を確保し、自分の力で生活を支えることは、仕事の大切な役割です。
しかし、60代になり、B型就労支援事業所での仕事や、その後のA型就労支援事業所へのステップアップを経験する中で、私は働くことには収入以外にもさまざまな意味があると考えるようになりました。
例えば、毎日の生活リズムを整えること、作業を通じて新しい技能を覚えること、人とのコミュニケーションを学ぶこと、そして社会でどのような商品やサービスが求められているのかを知ることです。
仕事を続ける中では、思いどおりにならないこともあります。職場の環境が自分の希望と合わなかったり、周囲との意思疎通に悩んだりすることもあります。
それでも、実際に働いてみたからこそ気づけることがあります。
この記事では、私自身の就労支援での経験を振り返りながら、働くことから得られるものと、これからの働き方を考えるうえで大切だと感じたことを紹介します。
60代で仕事を続けている方、復職を目指している方、就労支援を利用している方にとって、自分に合った働き方を考えるきっかけになれば幸いです。

1.仕事は毎日の生活にリズムをつくる
起床から帰宅までの流れを整える
私が働くことの意味として、まず大切だと感じているのは、毎日の生活に一定のリズムが生まれることです。
仕事や通所の予定があると、それに合わせて起床時間や朝食の時間を考えるようになります。出発時刻に間に合うように準備し、決められた時間に通所し、作業を終えて帰宅するという流れができます。
このような日々の積み重ねによって、生活の中に一定の区切りが生まれます。
仕事がない日には、起床や食事の時間が不規則になることもあります。しかし、通所する予定があれば、その予定を基準に一日の行動を組み立てやすくなります。
私にとって、仕事は単に作業をする時間ではありません。毎日の生活を組み立てるための一つの基準にもなっています。
生活リズムは、次の目標を考える土台になる
復職や副業を目指す場合にも、生活リズムを整えることは重要です。
例えば、決まった時間に起きる、朝食を取る、外出の準備をする、予定した時間に活動を始めるといった習慣は、働くための土台になります。
もちろん、体調や生活環境は人によって異なります。無理に一定の生活を押し通すのではなく、自分の状態に合わせて調整することも必要です。
大切なのは、最初から理想的な生活を目指すことではありません。できる範囲で一日の流れを整え、継続できる習慣を少しずつ増やしていくことです。
仕事を続けることによって生活のリズムを整え、その経験を次の目標につなげていく。この点も、働くことから得られる大切な価値だと感じています。
2.仕事を覚えることで、自信と経験が積み重なる
弁当作りで学んだ作業の要領
B型就労支援事業所では、軽作業だけでなく、弁当作りに関係する作業も経験しました。
その一つが、ご飯を盛り付ける作業です。
一見すると簡単な作業に思えるかもしれません。しかし、決められた量や盛り付け方を意識しながら、手順に沿って作業を進める必要があります。
こうした作業を経験することで、目の前の仕事を理解し、決められた手順を守りながら進めることの大切さを学びました。
仕事では、初めて取り組むときに戸惑うことがあっても、経験を重ねることで少しずつ分かることが増えていきます。
私が大切だと感じたのは、最初から何でもできる必要はないということです。作業の手順を覚え、自分にできることを一つずつ増やしていけば、それが次の経験につながります。

覚えた技能は、別の場面でも役立つ
仕事で身につけた技能は、必ずしもその職場だけで役立つものではありません。
例えば、弁当作りで覚えた盛り付けの手順や、決められた作業を順序よく進める経験は、デイケアなどで食事の準備を手伝う場面でも生かせる可能性があります。
また、箱の組み立て作業では、繰り返し取り組むことで手順を覚え、作業を進めやすくなります。
こうした経験を積み重ねることで、以前よりも対応できる仕事が増えることがあります。
もちろん、一つの仕事を覚えたからといって、すべての作業ができるようになるわけではありません。それでも、経験から得た知識や工夫は、別の仕事に取り組む際の助けになります。
自分ができることを増やすことは、周囲への貢献につながります。同時に、自分自身にとっても「これならできる」という自信の源になります。
仕事の価値を考えるとき、収入だけでなく、経験や技能が積み重なっていくことにも目を向けたいと思います。
3.職場でのコミュニケーションは、働き続ける力につながる
職員や利用者とのやり取りから学ぶ
仕事を続けるためには、作業そのものの技能だけでなく、人とのコミュニケーションも重要です。
就労支援事業所では、職員から作業の説明を受けたり、分からないことを質問したり、ほかの利用者とやり取りしたりする場面があります。
こうした経験を通じて、相手の説明を理解すること、自分の考えを伝えること、必要なときに確認することの大切さを学びました。
作業の内容が分からないときに、分かったふりをしてしまうと、後になって困ることがあります。一方で、早めに質問すれば、間違いを防ぎ、安心して作業を進めやすくなります。
コミュニケーションは、話が上手であることだけを意味するわけではありません。必要な情報を確認し、自分の考えを相手に伝え、相手の説明にも耳を傾けることが大切です。
不満や要望は、具体的に伝える
職場で仕事をしていると、不満や要望が生じることもあります。
そのようなとき、気持ちだけを伝えるのではなく、何に困っているのか、どうしてほしいのかを整理して説明することが重要だと感じています。
例えば、作業の手順が分かりにくい場合には、「説明が不十分です」と伝えるだけでなく、「この工程の順番をもう一度確認したいです」と具体的に伝える方法があります。
このように、困っていることを具体化すれば、相手も対応を考えやすくなります。
もちろん、丁寧に伝えれば必ず問題が解決するとは限りません。相手の事情や職場の運営上の制約もあるためです。
それでも、自分の状況を整理して伝えることは、問題を解決するための第一歩になります。
働くことは、作業を覚えるだけでなく、人との関わり方を学ぶ機会でもあるのです。
4.仕事を通じて社会の需要や商売の仕組みが見えてくる
作業品から、社会で求められているものを知る
就労支援事業所で取り組む作業は、社会の動きと無関係ではありません。
私が経験した作業では、サブスクリプションサービスに関連するカード、流行しているアニメに関係する商品、防災用の簡易トイレ、回転寿司で使われる簡易パットなど、さまざまなものに触れる機会がありました。
作業を通じて、世の中には多様な商品やサービスがあり、それぞれに利用する人や必要とする場面があることを知りました。
例えば、防災用品は、災害への備えという社会的な必要性と関係しています。また、アニメ関連の商品は、作品を楽しむ人たちの需要と結びついています。
もちろん、作業品を見ただけで市場全体の動向が分かるわけではありません。しかし、自分が普段あまり意識していない商品について知ることは、社会への関心を広げるきっかけになります。
商品の価格を整理する作業から商売を考える
A型就労支援事業所では、Amazonで販売されている家電製品について、新品と中古品の価格情報をコピーして整理する作業も経験しました。
この仕事を通じて、同じ商品であっても、新品か中古品かによって価格が異なることや、販売価格の情報を整理する作業があることを知りました。
価格を比較する際には、単に数字を並べるだけでなく、商品や状態の違いにも目を向ける必要があります。
こうした経験から、私は「商品を販売する際には、価格の見せ方や、購入する人が何を重視するかも重要なのではないか」と考えるようになりました。
ただし、価格情報の整理だけで、販売戦略や利益の仕組みをすべて理解できるわけではありません。それでも、日々の作業から商売の仕組みに関心を持つことはできます。
仕事は、収入を得るための活動であると同時に、社会の需要や商品が流通する仕組みについて学ぶ機会にもなるのです。

5.B型からA型へのステップアップで学んだ現実
働き方が変わると、求められることも変わる
私は、B型就労支援事業所での経験を重ねる中で、A型就労支援事業所へのステップアップも経験しました。
B型とA型では、事業所ごとの仕事内容や支援の方法、勤務条件などが異なります。A型への移行を考える場合には、収入や仕事内容だけでなく、求められる勤務時間、作業の進め方、職場環境なども確認する必要があります。
B型で経験を積むことは、次の働き方を考えるうえで役立つ場合があります。ただし、B型で長く働けば必ずA型に移行できるというわけではありません。
本人の希望だけでなく、体調、作業への適性、勤務条件、事業所の受け入れ状況など、さまざまな要素が関係するためです。
私自身の経験からも、ステップアップを考える際には、期待だけで判断するのではなく、実際の仕事内容や働く環境を確かめることが大切だと感じています。
利用者の希望と事業所の運営には、異なる側面がある
就労支援事業所には、利用者が働く経験を積み、生活や就労の目標に近づけるよう支援する役割があります。一方で、事業所にも事業を継続するための運営上の事情があります。
私は、社長や職員と利用者が面談を重ねる様子などを通じて、利用者の希望と事業所の運営には、それぞれ異なる側面があることを考えるようになりました。
利用者としては、自分の希望する仕事や働き方を実現したいと思います。しかし、事業所には、受注する仕事の内容や量、職員の配置、事業の継続性など、利用者個人の希望だけでは決められない事情もあります。
そのため、希望と現実に違いがある場合には、どちらか一方が必ず正しいと考えるのではなく、何が実現できて、何が難しいのかを具体的に確認することが重要です。
ステップアップを考えるときの確認事項
B型からA型への移行を検討するときは、次のような点を確認すると、自分に合った働き方を判断しやすくなります。
- 仕事内容は、自分の体調や技能に合っているか。
- 勤務時間や通勤・通所の負担は、無理のない範囲か。
- 仕事内容や勤務条件について、事前に具体的な説明を受けているか。
- 困ったことが起きたとき、誰に相談できるか。
- 収入だけでなく、長く働き続けられる環境かどうかも検討しているか。
これらの項目を確認しても、すべての問題を事前に予測できるわけではありません。しかし、移行後の生活を具体的に考えることで、期待と現実の差を小さくする助けになります。
ステップアップは、単に働き方を変えることではありません。自分に合った環境を考え、長く続けられる仕事を探す過程でもあるのです。
6.職場の問題は、必要に応じて外部にも相談する
職場の中だけでは解決しないこともある
仕事を続ける中では、仕事内容や人間関係、勤務条件などについて悩むことがあります。
まずは職員や上司に相談し、状況を整理することが基本になるでしょう。しかし、職場の中で相談しても問題が解決しない場合や、誰に相談すればよいか分からない場合もあります。
私自身、仕事を続けることを前提に、問題をどのように整理し、どこに相談すればよいかを考える必要性を感じました。
そのようなときには、事業所の中だけで解決しようとせず、状況に応じて別の相談先を検討することも選択肢になります。
相談先を一つに限定しない
例えば、状況に応じて、次のような相談先が考えられます。
- 市区町村の障害福祉担当窓口: 福祉サービスや制度について確認したいとき。
- 病院の相談室や医療ソーシャルワーカー: 体調や通院、生活面の問題と仕事の両立について相談したいとき。
- 相談支援専門員などの支援者: 福祉サービスの利用や、今後の生活・就労について相談したいとき。
- 労働に関する公的相談窓口: 雇用条件や職場での労働上の問題について確認したいとき。
どの相談先が適切かは、問題の内容や利用している制度によって異なります。必要に応じて、自治体などに確認しながら相談先を選ぶことが大切です。
また、相談する前に、いつ、どこで、何が起きたのか、自分は何に困っているのかを整理しておくと、状況を伝えやすくなります。
職場で問題が生じたからといって、すぐに仕事を辞めるか、我慢して続けるかの二択で考える必要はありません。問題を整理し、相談し、働き続けるために必要な条件を検討することもできます。
ただし、健康や安全に重大な問題がある場合には、無理に仕事を続けることを優先せず、必要な支援を求めることも重要です。
7.60代からの働き方は、自分に合った価値を見つけること
仕事に求めるものは、人によって違う
60代になると、仕事に求めるものも人それぞれです。
収入を増やしたい人もいれば、生活のリズムを整えたい人、社会とのつながりを保ちたい人、これまでの経験を生かしたい人もいるでしょう。
復職を目指している人と、副業に取り組みたい人とでは、必要な準備も異なります。就労支援を利用している人にとっては、体調や支援の内容に合わせて、無理なく続けられる働き方を考えることが重要になる場合もあります。
そのため、他人の働き方や収入と自分を単純に比較するのではなく、自分が何を大切にしたいのかを整理することが必要です。
働く目的を具体的に考える
例えば、次のような質問を自分に投げかけてみると、働く目的を整理しやすくなります。
- 収入を得ることと、生活リズムを整えることのどちらを優先したいか。
- どのような仕事なら、自分の経験や技能を生かせそうか。
- どの程度の勤務時間なら、体調や生活との両立ができそうか。
- 仕事を通じて、どのようなことを学びたいか。
- 困ったときに相談できる環境があるか。
これらの質問に、すぐに答えを出す必要はありません。働きながら考えが変わることもあります。
大切なのは、自分の希望と現実を定期的に振り返り、必要に応じて働き方を見直していくことです。
私自身、B型での経験やA型へのステップアップを通じて、仕事は収入を得るだけのものではなく、自分の生活、技能、人との関わり、社会への理解を見つめ直す機会にもなると感じました。
60代からでも、これまでの経験を振り返り、今後の働き方を考えることはできます。大きな目標を掲げるだけでなく、今の自分にできることから始めることも、一つの方法です。

8.これから働くことを考える人のためのチェックリスト
ここまで、私自身の経験を通じて、働くことから得られるさまざまな価値について紹介してきました。
最後に、これから復職や副業を目指す人、就労支援を利用している人が、自分の状況を振り返るためのチェックリストをまとめます。
生活面のチェック
- 起床、食事、就寝などの生活リズムを、無理のない範囲で整えているか。
- 通勤や通所に必要な時間と負担を把握しているか。
- 仕事と休息のバランスを考えているか。
仕事の経験に関するチェック
- 現在できる作業と、これから覚えたい作業を整理しているか。
- これまで身につけた技能を、別の場面でも生かせないか考えているか。
- 分からないことを質問したり、困ったときに相談したりできる環境があるか。
今後の働き方に関するチェック
- 収入だけでなく、体調や生活環境も含めて働き方を考えているか。
- 自分が希望する仕事内容と、実際の仕事内容を比較しているか。
- 職場で解決できない問題が起きたとき、別の相談先を検討できるか。
- 仕事を通じて何を得たいのか、自分なりの目標を考えているか。
すべての項目を一度に実行する必要はありません。まずは一つ、自分が取り組みやすい項目を選んでみてください。
例えば、起床時間を整えることから始めてもよいでしょう。これまでの仕事で身につけた技能を書き出してみるのも一つの方法です。
自分にできることを確認し、次に取り組むことを決める。その小さな積み重ねが、これからの働き方を考える手がかりになります。
まとめ|働くことは、自分の生活と可能性を見つめ直す機会
60代になって、B型就労支援事業所での仕事やA型就労支援事業所へのステップアップを経験する中で、私は働くことには収入以外にも多くの意味があると考えるようになりました。
仕事には、生活のリズムを整えること、作業を通じて技能や経験を身につけること、人とのコミュニケーションを学ぶこと、社会で求められている商品やサービスを知ることなど、さまざまな側面があります。
一方で、職場の希望と現実が合わないことや、周囲との意思疎通に悩むこともあります。そのような場合には、自分の状況を整理し、職場の中で相談したり、必要に応じて外部の相談先を検討したりすることが大切です。
仕事を続けることが、すべての人にとって常に最善とは限りません。体調や生活環境に応じて、働き方を調整したり、休息を取ったりすることも必要です。
それでも、働く経験を通じて、自分にできることや、これから目指したいことに気づける場合があります。
大切なのは、収入だけで仕事の価値を判断しないこと。そして、他人と比較するのではなく、自分に合った働き方を考え続けることです。
これから復職や副業を目指す方、就労支援を利用している方、60代から新たな一歩を考えている方にとって、この記事が自分の経験や希望を整理するきっかけになれば幸いです。


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