経営の二面性とは?社員の信頼と会社の利益、「空手形」を時間軸から考える

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経営者には、社員から信頼される存在であることが求められます。

社員が「この会社で働き続けたい」「この経営者のもとで頑張りたい」と感じれば、会社への帰属意識が生まれ、人材の定着にもつながります。

しかし、経営者には社員一人ひとりの幸福だけではなく、会社全体の利益、業績、雇用、そして事業の存続を守る責任もあります。

つまり経営者には、**「社員個人を大切にする立場」と「会社全体を守る立場」**という二つの側面があります。

そして、会社を守るうえでは、人材流出を防ぐことも重要な経営課題になります。

特に小規模事業所では、仕事のできる社員が一人抜けるだけで、業務や経営に大きな影響が出ることがあります。

そこで、ステップアップ、昇進、重要な仕事、施設利用者の職員化など、将来の可能性を示して継続を促すことがあります。

さらに、その将来像が必ずしも具体的な実現計画を伴っていなくても、人を動かす経営上の手段として提示される可能性があります。

ここに「空手形」という問題があります。


1.経営者には「社員を大切にする責任」と「会社を守る責任」がある

社員からの信頼は会社の基盤

社員が経営者を信頼できなければ、

「努力しても評価されない」

「会社は自分の将来を考えてくれない」

「ここで働き続ける必要はない」

という気持ちが生まれる可能性があります。

その結果、会社への帰属意識が低下し、退職や転職につながることもあります。

特に能力の高い社員は、他社でも評価される可能性があるため、人材流出は会社にとって重要な経営課題です。

一方で、経営者は社員の希望をすべて受け入れられるわけではありません。

例えば、他社からより良い条件を提示された社員がいた場合、本人の幸福だけを考えれば転職を応援することもできます。

しかし、その社員が会社の主力業務を担っていれば、退職によって業務や業績に大きな影響が出る可能性があります。

つまり経営者は、社員の幸福と会社の利益を同時に考えなければならない立場にあります。


2.小規模事業所ほど「一人の退職」が大きな問題になる

経営状態によって人材の価値は変わる

大企業では、一人の社員が退職しても、他の社員が仕事を分担したり、新しい人材を採用したりする余地があります。

しかし、小規模事業所では、一人の職員が複数の重要な仕事を担当していることがあります。

その人が退職すれば、業務の停滞、残った職員の負担増加、採用や教育のコストなどが発生します。

さらに会社の経営が傾き、職員の出入りが激しい状況なら問題は深刻です。

「仕事のできる社員が一人抜ける」ことが、「会社の業績がさらに悪化する」ことにつながる場合もあります。

そのため経営者にとっては、

「今、この人に辞められると困る」

という短期的な危機が生まれます。

経営には「時間」が必要になる

会社を立て直すには、新しい人材の採用、教育、業務改善、顧客の確保など、一定の時間が必要です。

しかし、重要な社員がすぐに退職すれば、その改革を進める時間そのものが失われる可能性があります。

そこで、人材流出を防ぎながら会社を立て直すための猶予を確保するという発想が生まれます。

この時間軸が、将来の約束を経営手段として利用する背景になります。


3.将来の目標には「人を動かす力」がある

ステップアップや職員化という目標

社員に対して、

「努力すればステップアップできる」

「将来的には重要な仕事を任せたい」

「施設利用者から職員になる道も考えられる」

などと示せば、本人は将来に期待を持ち、現在の仕事を継続する可能性があります。

仕事を続けることで実務経験が増え、能力が高まれば、会社にとっては生産性の向上や人材確保につながります。

同時に本人にも、能力、経験、実践力、自信などが残ります。

ここで重要なのは、当初の目標が完全に実現しなくても、努力した過程に価値が残る場合があるということです。


4.「空手形」は経営上の手段として成立する可能性がある

実現計画がなくても人を動かす

「空手形」という言葉には、一般的に実現する意思のない約束という否定的な意味があります。

しかし、会社経営の現実を考えると、これを倫理的な問題だけで捉えることはできません。

経営者が最初から具体的なステップアップや職員化の実現計画を持っていなくても、将来の可能性を示すことで、社員や利用者に継続を促すことは、経営上の手段として考えられます。

例えば、将来の役割や待遇を示して人材を引き留め、その間に会社の経営を立て直す。

これは、人材を確保しながら会社を維持するための時間を生み出す手段と見ることができます。

もちろん、その方法が倫理的に適切かどうかは別の問題です。

韓非子の思想から考える「人を動かす仕組み」

ここで、人間の心理や利害を利用して組織を動かすという発想を考えると、古代中国の思想家・韓非子の「法・術」という考え方が一つの参考になります。

韓非子は、人間の善意だけに頼るのではなく、人間が利益や賞罰などに反応することを前提に、制度や仕組みによって人を動かすという考え方を重視しました。

現代の会社経営と韓非子の思想をそのまま同一視することはできません。

しかし、

「人間が何を期待し、何によって行動するのかを見極め、それを組織運営に利用する」

という視点から見ると、将来の地位や待遇を示して社員の行動を促すという発想には、考察できる共通点があります。

つまり、

「実現するから将来を示す」のではなく、「人を動かすために将来を示す」

という経営手法も、理論上は存在し得るのです。


5.それでも「空手形」に価値が生まれる場合がある

継続によって本人にも利益が残る

では、実現する意思や具体的な計画が十分になかった将来の約束によって本人が継続した場合、その期間には意味がないのでしょうか。

必ずしもそうとは言えません。

仕事を続ければ、実務経験が増え、能力が向上します。

会社にとっては生産性が高まり、本人にとっては将来の仕事の選択肢が増える可能性があります。

つまり、会社の利益と本人の利益が、結果的に一致することがあります。

たとえ当初の目標の100%が実現しなくても、50%、60%の能力向上や経験が残れば、本人にとって十分な価値になる場合があります。

その結果、後から振り返って、

「あのとき継続してよかった」

と考えられる可能性もあります。

ここには、経営者が社員を継続させることで、会社だけでなく本人の成長も期待するという側面があります。


6.自衛隊時代のTCOの経験から考える

半年後の目標に向かって努力した

この問題を考えるうえで、私自身の自衛隊勤務時代の経験があります。

当時、TCOという職務について、将来性があり、実務展開上も多くの幹部自衛官から求められる意味のある役職がありました。

その職務を担当する方向について指揮官から話を受け、そこへ進むためにどのような計画を立てるのかという説明を受けました。

当初は「半年後にTCOを実現する」という話でした。

私は、その目標に向かって一生懸命努力しました。

しかし、途中でその話は撤回され、最終的にTCOに就くことはありませんでした。

実現しなくても努力は残った

結果だけを見れば、当初の目標は実現しませんでした。

しかし、その期間に努力したことで、自分自身の知識、能力、実務対応力は向上しました。

つまり、

「目標そのものは実現しなかったが、目標に向かって努力した時間は自分の能力として残った」

のです。

この経験は、将来の約束を考えるうえで重要です。

最終的な結果が100%でなくても、その過程で本人に能力や経験が残るなら、継続したこと自体に別の価値が生まれるからです。


7.「約束」だけではなく、その後に何が残ったのかを見る

継続させることと成長させること

将来のステップアップや施設利用者の職員化が実現しなかった場合でも、継続した本人に何が残ったのかを見る必要があります。

能力が向上したのか。

実務経験が増えたのか。

新しい仕事ができるようになったのか。

会社への貢献度が高まったのか。

その経験が次の仕事や人生に活用できるものになったのか。

こうした点を見ることで、将来の約束を利用した継続を、単純な「成功」や「失敗」だけでは評価できなくなります。

会社の都合だけで社員を継続させるのであれば、人材は単なる経営資源として扱われます。

しかし、その継続によって本人の能力も高まり、会社にも貢献できるのであれば、そこには双方に価値があります。


まとめ|「空手形」は、継続によって何が残るかで意味が変わる

経営者には、社員個人の幸福を考える立場と、会社の利益や存続を守る立場があります。

特に経営が厳しい小規模事業所では、一人の重要な社員が退職するだけで大きな影響が出るため、将来のステップアップや施設利用者の職員化などを示して継続を促すことがあります。

その将来像は、必ずしも最初から具体的な実現計画を伴っているとは限りません。

経営上は、将来への期待を示すことで人材を確保し、会社を立て直すための猶予を生み出す手段として利用される可能性があります。

韓非子の「法・術」という考え方から見ても、人間の期待や利害を利用して組織を動かすという発想は、思想的に考察することができます。

しかし、そこで重要なのは、その結果として何が残るかです。

当初の目標が100%実現しなくても、継続によって本人に50%、60%の能力向上や実務経験、実践力が残れば、後から「継続してよかった」と考えられる場合があります。

私自身のTCOの経験も、当初の目標は実現しなかったものの、その過程で能力が向上したという意味では、その一例です。

したがって、経営における「空手形」は、単純に「信頼を失う悪い手法」とだけ見ることもできません。

重要なのは、将来の約束によって生まれた継続と努力が、本人と会社の双方にどのような価値を残したのかということです。

会社を守るために人を継続させることと、その継続を本人の成長につなげること。

この二つが両立するのであれば、当初の目標が完全に実現しなかったとしても、その継続には一定の経営上の意味があります。

経営の二面性とは、まさにこの**「会社を守ること」と「人を成長させること」を同時に考えなければならない難しさ**にあるのではないでしょうか。

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